前回、管理会計改善を目的としたERP導入が高級なファイル名変更作業に終わる原因は、「超上流」にあると述べました。そもそも超上流とはどのような領域なのでしょうか?
ERP導入における一般的な上流工程とは、 現場の業務フローや必要な機能を決める要件定義を行う領域です。 そして、超上流とは、そのさらに前段である企業が自社の経営管理をどうすべきかを判断するためのよりどころとなる規範の設定をする領域です。すなわち、「規範」→「経営管理の設計」→「要件定義」という論理構造の最上位にある領域になります。
超上流とは管理会計における重要領域
この超上流という工程は、管理会計において決定的に重要な領域です。
財務会計ではこの領域は特に問題になりません。財務会計には会計基準という絶対的な規範が既に存在し、超上流の作業は既に完了しているのです。したがって、財務会計においては、これに準拠させるという上流の作業から開始すれば良いのです。
一方、管理会計には、すべての会社が利用できる統一的な規範は用意されていません。なぜなら、管理会計とは各社の独自の経営戦略に資するためのものだからです。 すなわち、各社が自らの手で自社の規範を設定しなければならないのです。
規範なき管理会計設計
それでは、この超上流の規範の設定を蔑ろにしたまま上流工程の要件定義を開始するとどうなるのでしょうか?
判断の拠り所となる規範がない状態で管理会計の設計を進めるのは、「海図」を持たずに大海原へ出るようなものです。 目の前に現れた分岐点で、右に行くべきか、左に行くべきか。その判断基準がどこにもありません。
何が正しいかを判断できないプロジェクトチームはどうするか。 結局、「今やっているやり方」を正解とするしかなくなります。 本来議論すべき「わが社にとってあるべき姿(To-Be)」は無視され、「今のやり方を新しいシステムで再現する(As-Is)」という、場当たり的な現状是認が行われてしまうのです。
プロジェクト現場で起きている問題点
さらに根深い問題は、多くのプロジェクト現場でこのような構造が意識されていないことです。
もし、「自社で規範を設計できないから、仕方なく既存の基準で代用しよう」と意識的に判断しているのであれば改善が可能です。限界を理解した上での妥協だからです。
しかし、現実は違います。
財務会計基準や原価計算基準こそが、権威ある団体により定められた正統なルールであり、管理会計においても適切な規範であるはずだと信じ込み、無意識的に採用してしまっているのです。
その結果、どうなるか。
現代の実務とは整合しない規範であるにもかかわらず、強引に自社の管理会計を設計してしまう。数字を入力するシステムユーザー、その数字を集計する管理会計担当者、その数字でレポートを受ける経営者、全ての方が不幸になります。設計は正しい規範で行わなければいけません。航海はGoogleMapだけでもある程度できるかもしれませんが、より適切な規範である航海図を利用すべきです。
では、具体的に既存の基準を流用する管理会計の現場では何が起きているのか?
次回は、その点についてご説明します。

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